私たちの研究開発の根底には、「自然」のしくみを理解し、それを活かすことで人々の健康で豊かな生活を支えるという理念があります。特に、「水」や「ミネラル」は物質を構成する非常に重要な要素であると考え、基礎的な研究活動を続けています。
水は化学的にはH2Oですが、私たちの考える「水」は純物質としてのH2Oではなく、生活の中の水です。実際、自然の中に存在する水には、無機物も有機物も含まれ、飲む・洗う・溶かすといった、目的によっても適する水の性質は異なります。それでいて、水の中に含まれるものはごく微量(多くの成分はμg/L~mg/L)であることから、明確な違いを捉えるのは非常に難しくもあります。
「ミネラル」とは一般に有機物を構成する4元素(炭素・水素・窒素・酸素)を除く必須元素※を指しますが、その他の微量元素についても研究対象としています。また、ミネラルは水だけでなく、あらゆる物質の性質を左右し、生体内でも様々な生理作用に関わっています。
水やミネラルを研究するということは、唯一無二の機能性を探し出す宝探しのようなことではなく、たくさんの人の中から性格と能力に合った仕事をマッチングするようなものです。含まれる成分の種類や量、どのような形態で存在するかによって、そのマトリックス(混合物)としての「水」、ミネラルそのものである「鉱物」がどのような物質的性質を持ち、どのような用途目的と適合するのか。
私たちの研究は、さまざまな「水」や「鉱物」の化学的性質、物理的性質を計測し、細胞を用いて生化学的評価も行い、人々の感覚的評価や現象論に科学的な知見を見出し、最適な用途に利用することを目的としています。
※生物が摂取することで得る、生命維持にとって欠かせない元素
鉱物は地球上のあらゆる場所に存在し、私たちの生活とも密接にかかわっています。鉱物はその生成過程や含有元素の比率によってさまざまな性質を示し、それゆえにいろいろなものに加工されています。宝石や貴金属、建材や食器など、鉱物を原料とするものは身近なところにたくさんあります。
化粧品ともかかわりが深く、古くはアイシャドーや白粉などに使われてきました。発色や加工の容易さをもとに素材を選んだことで肌や体に健康被害が生じた歴史もあります。現在では鉱物の分類や精製・加工方法の発展に伴い、人体に無害で機能的なものを利用することができるようになりました。それぞれの性質に応じて顔料、賦形剤、増粘剤をはじめ、さまざまな用途に利用されています。
モシリクレイ
モシリクレイの電子顕微鏡画像(×300)
温泉の泉質は環境省の定めた「温泉法」により分類されます。
溶存物質、溶存ガスの種類や量に依存し、細かく分類がなされており、療養泉として効果効能の表現も可能です。
また、「日本三大美人の湯」「日本三大美肌の湯」など、特に肌に着目したものも知られています。
このように水に含まれる様々な成分により、「水」そのものの性質は大きく異なると考えられ、特に日本では火山の恩恵を受け各地に温泉が湧出することからも、古くから温泉の泉質の違いを感じ取ってきました。
私たちは各地の水をめぐり、ミネラルと水の関係性を研究していく中で、泉質に影響を及ぼすことができる全く別の要素があること、つまり環境由来の有機物を含むことで、無機的な性質の違いとは異なる水の多様性が生まれることに気づきました。
植物性温泉水は、地下深くに堆積した植物遺骸が特殊な条件下にあって、完全に分解することなく腐植物質として存在し、それが地下水脈に接することで湧水に含まれる、植物由来の有機物を含んだ温泉水です。
日本各地にある「黒湯」などの温泉の多くは、こういった腐植物質を含むことが分かっています。
「腐植物質」は化学構造が特定されない有機物であり、その構造は無数のバリエーションがあり物理・化学的特性も異なります。
腐植物質の研究は世界的にみても複雑で、解明されていないことが多く、特性も気候や基原生物などの環境依存性が高いことから現在も研究が継続されています。
植物性温泉水
北海道十勝川流域に湧出する弱アルカリ性温泉水